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第8回日本混合研究法学会年次大会 (JSMMR2022)
招待講演

2022年10月15日(土) 9:20-9:50 (日本時間)

大会長講演:
混合研究法による知の結晶

講演者:稲葉 光行(立命館大学)
司会:前原 和明(秋田大学)

【使用言語】日本語

近年、混合研究法において、データマイニングやテキストマイニングによるビッグデータ解析、あるいは社会ネットワーク分析や地理情報システムなど質・量のハイブリッドなデータに対する混合型分析が取りあげられるなど、データソースや分析枠組みについての議論が多様化している。これらの議論の中では、データ分析の迅速化だけでなく、視覚表現に基づく統合やメタ推論の導出の可能性に関する注目が高まっている。実際、研究デザイン・分析・報告、あるいはメタ推論の導出を支援するジョイントディスプレイやビジュアルディスプレイといった道具の活用事例を紹介する論文・書籍やワークショップ等も増えている。このような背景から、本発表では、ジョイントディスプレイやビジュアルディスプレイなどの視覚表現に着目し、本大会のテーマである「混合研究法による知の結晶」がどのような過程を通して可能であるかを考察する。
具体的には、混合研究法の実践において、研究者が視覚表現と対話しながらメタ推論を導出する過程を、ナレッジマネジメントの源流とされる「知識創造」(野中・紺野, 2003)の枠組みを援用して検討する。ジョイントディスプレイを通した視覚表現に基づくメタ推論の導出は、数値や言葉で表わされる「形式知」と、明示的に表現できない「暗黙知」が反復的に変換されるサイクルによって、知識が「結晶化」されるプロセスであると捉えることができる。また知識創造においては、データに基づく帰納に加え、アブダクション(仮説推論)の思考が重要であるとされるが、混合研究法における視覚表現は、研究者によるアブダクションを促進する上での有用な道具であると考えられる。
本発表では、知識創造の理論を手かがりとしつつ、視覚表現に対する反復的な考察を経てメタ推論の導出を目指す「グラウンデッドなテキストマイニング・アプローチ:GTxA」 (Inaba & Kakai, in press)をはじめ、視覚表現を活用した混合研究法の事例を紹介する。そして、混合研究法を用いる研究者が、ジョイントディスプレイとの対話によって新たな洞察を得る過程への理解を深めることを目指す。
  • Inaba, M., & Kakai, H., (in press). Grounded Text Mining Approach: An Integration Strategy of Grounded Theory and Textual Data Mining, In Poth, C. (Ed.). The Sage Handbook of Mixed Methods Research Design. SAGE.
  • 野中郁次郎・紺野登. (2003). 知識創造の方法論東洋経済新報社.

稲葉 光行

立命館大学政策科学部教授。日本混合研究法学会理事(2015~)、同学会理事長(2019~)。専門は情報科学・学習科学。混合研究法に関する著書の分担執筆として『The SAGE Handbook of Mixed Methods Research Design (SAGE, in press)』、『混合研究法の手引き─トレジャーハントで学ぶ研究デザインから論文の書き方まで』(遠見書房,2021)などがある。

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2022年10月15日(土) 10:00-10:40 (日本時間)

基調講演 1:
混合研究法発展への期待

講演者:亀井 智子(聖路加国際大学大学院看護学研究科)
司会:野崎 真奈美(順天堂大学)

【使用言語】日本語

看護学は、健康問題とともに生きる人々の複雑な現象を扱うことが多い。その人の心身社会的状態や家族・地域環境など多様な情報を広く集め、何が生じているのか系統的に評価・推論して、その後フォーカスを絞って具体的ケアのストラテジーをたてていく。そのため、常に量的情報(データ)と質的情報(データ)に深く対峙する目をもち、両者を混ぜ合わせ(統合)ながら思考を最大に広げ、その後、それとは逆に焦点化するプロセスを繰り返す。このプロセスは、混合研究法に通じる思考であると考えている。
現在、青山学院大学 抱井尚子教授の研究プロジェクトへの参画の機会を得て、わが国の看護学研究者の特性を理解し、混合研究法の教育プログラム作成に向けた調査を多分野の研究者と協働している。その中で、看護学教育では、混合研究法の教育者の不足、日本語教材の不足、初学者や自信のない研究者へのサポートの必要性などが明確化している。これらは、他分野にも通じる可能性があると推察される。
健全な混合研究法の発展のためには、研究の自由と自由な発想の両者を促進し、醸成する環境が大切である。混合研究法コミュニティは、分野を超えた研究者が共に方法論を学び、探求し続け、後進者の育成を図ることが必須であると考えている。とくに、若手研究者との対話によって、新しいアイディアを引き出すとともに、混合研究法の先駆者達が多くの示唆を示しているように、性質の異なるデータの収集や統合と推論のプロセスをさらに具体的化し、確立することが必要ではないか。分野のみならず、世代をも超えて皆が方法論的発展に寄与するコミュニティづくり、そして、その成果を発信する場としての学会誌「混合研究法Annals of Mixed Methods Research」の両者が混合研究法の発展にとって欠かすことができないと考えている。

亀井 智子

保健師、看護師の実務経験後、東京医科歯科大学医学部保健衛生学科助手、講師、聖路加国際大学助教授を経て2007年から現職。日本混合研究法学会理事、混合研究法Annals of Mixed Methods編集委員長。日本在宅ケア学会理事長、日本在宅ケア教育研究センター長、日本看護科学学会理事、日本在宅ケアアライアンス理事、日本世代間交流学会理事などを務める。混合研究法の中でも、縦断的収斂デザインを用いた看護研究に関心をもち、取り組んでいる。

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2022年10月15日(土) 10:50-11:30 (日本時間)

基調講演 2:
質的研究の国際的視点『質的研究をはじめるための30の基礎スキル』
An International Perspective on Qualitative Research: The SAGE 30 Essential Skills for the Qualitative Researcher

講演者:ジョン・W・クレスウェル(ミシガン大学)
司会:河村洋子(産業医科大学)

【使用言語】英語(日本語通訳有)

質的研究の実施手順に関する国際的な合意形成が進められている。これらの手順は『アメリカ心理学会(APA)執筆マニュアル』(2020)に掲載されている。このマニュアルは、社会科学や健康科学の領域で使用され、世界中で用いられているものであり、混合研究法プロジェクトの質的研究の部分についてはこの規準を参照することができる。私の新刊『30 Essential Skills for the Qualitative Researchers』 (SAGE, 2e, Creswell & Baez, 2021)も、このAPA規準に従っている。またこの書籍は、私の40年にわたるアカデミック・キャリアにおいて、質的研究および混合型研究を行う際に用いてきた実践的なアプローチにも議論を広げている。現在、SAGEの英語原著の日本語訳として、『質的研究をはじめるための30の基礎スキル-おさえておきたい実践の手引き』(新曜社, 廣瀬眞理子訳, 2022)が出版されている。本講演では、読者が最も有用(かつ困難)であると感じた主要な応用例について紹介する。それらには、質的研究者のように考えること、研究の中で生じる難しい感情の管理、質的研究における哲学と理論の活用、質的研究の目的とリサーチクェスチョンの記述、インタビュープロトコルの設計と実施、テキストデータのコーディング、省察的な執筆、優れた質的研究の規準、などが含まれる。これらの話題は、日本の文脈に配慮し、混合研究法と質的研究の関連性を考慮した形で紹介される。パワーポイントによるプレゼンテーションは英語で行われ、日本語の通訳が付く(廣瀬眞理子氏担当)。

There is a growing agreement about procedures internationally for conducting qualitative research. These procedures are available in the American Psychological Association Publication Manual (2020). Because this manual is used in social and health sciences and followed worldwide, we can refer to its standards for the qualitative strand of our mixed methods projects. In my new book, “30 Essential Skills for the Qualitative Researchers (SAGE, 2e, Creswell & Baez, 2021). I follow the APA standards. I also extend the discussion to practical approaches I have used for conducting qualitative and mixed methods studies during my 40-year academic career. This SAGE book is now available in a Japanese translation (Dr. Hirose, translator). In this presentation, I will highlight key applications readers have found most useful (and challenging) in this book. These include: thinking like a qualitative researcher, managing difficult emotions that come up during research, using philosophy and theory in qualitative research, scripting a qualitative purpose statement and research questions, designing and administering an interview protocol, coding text data, writing reflexively, and criteria for a good qualitative study. These topics will be introduced with a) a sensitivity to the Japanese context and b) their connection in the qualitative strand of a mixed methods research study. The PowerPoint presentation will be delivered in English, assisted by a Japanese translator (Dr. Mariko Hirose).

ジョン・W・クレスウェル (John W. Creswell)

クレスウェル氏は、ミシガン混合研究法プログラム上級研究員である。研究方法に関する32冊の本を執筆している。SAGEのJournal of Mixed Methods Researchを共同で創刊し、フルブライト上級研究員、国立衛生研究所の混合法研究に関するワーキンググループを共同主宰した。2014年、ハーバード大学公衆衛生大学院の客員教授を務め、南アフリカ・プレトリア大学から名誉博士号を授与された。2015年、ミシガン州混合研究法プログラムに参加。これまでにJSMMRのカンファレンスで登壇してきた。
研究の最新情報は、彼のウェブサイト:johnwcreswell.com で見ることができる。

Dr. Creswell is a Senior Research Scientist of the Michigan Mixed Methods Program. He has authored 32 books on research methods. He co-founded SAGE’s Journal of Mixed Methods Research, was a Senior Fulbright Scholar, and co-led a National Institute of Health working group on mixed methods research. In 2014, he served as a Visiting Professor at Harvard’s School of Public Health, and received an honorary doctorate from the University of Pretoria, South Africa. In 2015, he joined the Michigan Mixed Methods Program. He has contributed to JSMMR conferences. Updates on his work can be found on his website: johnwcreswell.com.

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2022年10月15日(土) 13:40-14:20 (日本時間)

招待講演:
混合型研究のクオリティ(質)の基準を実証研究に適用する

講演者:廣瀬 眞理子(関西学院大学/文学部心理科学実践センター)
司会:福田 美和子(目白大学)

【使用言語】日本語

混合型研究におけるクオリティ(質)に対する評価基準については、これまで混合研究法の研究者によりさまざまな議論がなされてきた。また本学会年次大会(2019)でも取り上げられてきたトピックであるので関心をお持ちの方も多いだろう。近年の混合研究法への学問領域を超えた関心の高まりを考えると、混合型研究における質の基準は、’in house’だけではなく、多様な視点(ステークホルダーや職能団体など)を取り込む必要があると考えられる。また、新しく混合研究法に取り組もうと考える研究者にとって、研究の質を理解するための基準は大変重要なトピックだ。
本講演では、2022年5月にJournal of Mixed Methods Research(JMMR)より刊行された論文(Hirose & Creswell, 2022)を取り上げ、混合型研究のクオリティ(質)の評価基準に関する多様な最近の情報ソースから合成された6つの基準のショートリストを紹介する。次にこのショートリストを、日本における青年期発達障害者の家族を対象とした行動支援プログラムの開発及び実践の効果を検討した実証研究(廣瀬, 2018)に適用する。これらの取り組みをとおして、混合法研究の分野での新しい研究者に不可欠な基準を具体的に示したいと考える。
  • Hirose, M., & Creswell, J.W., (2022)Applying Core Quality Criteria of Mixed Methods Research to an Empirical Study. Journal of Mixed Methods Research 2022, Vol. 0(0) 1–17
  • 廣瀬眞理子(2018)混合研究法をもちいた青年期発達障害の家族のための行動支援プログラムの開発と効果の検討―自治体と協働する地域発達支援―関西学院大学大学院文学研究科博士論文

廣瀬眞理子

関西学院大学非常勤講師、文学部心理科学実践センター相談員。関西学院大学大学院博士課程修了、博士(心理学)。公認心理師。 青年期の発達障害者の家族のためのポジティブ行動支援を核としたコミュニティ支援を実践。質的ならびに混合研究法に関しては、訳書に『質的研究をはじめるための30の基礎スキル-おさえておきたい実践の手引き』(新曜社, 2022)、共著書に 『TEAにおける対人援助プロセスの分岐と記述』(誠信書房, 2022)、『なるほど!心理学面接法』(北大路書房, 2019)などがある。

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2022年10月16日(日) 10:10-10:50 (日本時間)

特別講演:
厳密な混合研究法の実施における困難と概念化・方法論的課題の克服のためのストラテジー
Challenges to Conducting Rigorous Mixed Methods Research and Strategies to Overcome Conceptualization and Methodological Challenges

アティシャン・ヨーナス(ニューファンドランドメモリアル大学)
司会:眞壁 幸子(秋田大学)

【使用言語】英語(日本語訳文付)

健康、行動、社会現象を研究するために混合法研究の利用が拡大している。しかしながら、質的・量的データセットのデザイン、分析、統合、解釈の複雑さから、厳密な混合研究法を概念化し実施することは、専門家・初心者の双方にとっても困難な場合がある。本発表の目的は、厳密な混合研究法の設計と実施における6つの主要な課題を概説し、これらの課題を克服するための戦略を提供することである。6つの課題とは、質問/目的の記述、デザインの特定、順序、戦略的統合、サンプルと選択、CDE(確認/Confirmed、拡張/Expanded、および 不一致/Discordance)の報告である。この6つの課題は、相互に関連しながら取り組む必要があるものである。困難を克服するため、混合研究法の文献と、混合研究法を実施した個人的な経験から戦略を導き出す。また、順次的・戦略的統合における課題に関する手順を決めるための決定木 (decision tree) を紹介する。さらに、ここでの課題と戦略の説明のために、これまでに発表された混合研究法の実践例を共有する。

The use of mixed methods research for studying health, behavioral, and social phenomena is growing. Nevertheless, conceptualizing and conducting rigorous mixed methods research can be daunting to both expert and novice researchers due to the complexity in design, analysis, integration, and interpretation of qualitative and quantitative datasets. The purpose of this presentation is to outline six key challenges in designing and conducting rigorous mixed methods studies and offer strategies to overcome these challenges. The six challenges include: question/purpose writing, design identification, sequence, strategic integration, sample and selection, and CDE (confirmed, expanded, and discordance) reporting. These six challenges should be addressed in an interrelated manner. To overcome these challenges, strategies are drawn from mixed methods literature and personal experiences of conducting mixed methods studies. A decision tree is also shared to identify various integration procedure to tackle the sequence and strategic integration challenge. Practical examples of published mixed methods studies are shared to illustrate the challenges and strategies.

アティシャン・ヨーナス (Ahtisham Younas)

アティシャン・ヨーナス氏は、カナダ、ニューファンドランド記念大学看護学部助教。パキスタンの看護研究学会の共同設立者。パキスタン看護研究学会が発行する Creative Nursing誌とHealth Sciences Research and Theory誌の共同編集長を務めている。研究テーマは、混合研究法、疎外された人々、思いやり、そして実践科学である。また、パスウェイ構築法、混合研究における不一致への対処法、三者間分析法など、いくつかの方法論に関する研究業績がある。

Ahtisham Younas is an Assistant Professor in the Faculty of Nursing at Memorial University of Newfoundland, Canada. Ahtisham is the co-Founder of Nursing Research Society of Pakistan. He is the Co-Editor in Chief of Creative Nursing journal and the Health Sciences Research and Theory Journal published by the Nursing Research Society of Pakistan. Ahtisham’s research focuses on mixed methods and research methods, marginalized populations, compassion, and implementation science. In his research, Ahtisham has used exploratory sequential and convergent designs and also published several methods paper such as the pathway building technique, addressing discordance in mixed methods, and the Tripartite Analysis technique.

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