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第8回日本混合研究法学会年次大会 (JSMMR2022)
MMRオープンフォーラム

2022年10月16日(日) 11:00-12:30 (日本時間)

研究者に立ちはだかるMMRの壁

企画・登壇者:眞壁 幸子(秋田大学)
ファシリテータ:抱井 尚子(青山学院大学)

【使用言語】日本語

混合研究法は、人間が関わる複雑な問題を総合的に理解するために、質的データ分析と量的データ分析を実施し、それらを統合したメタ推論を目指す研究手法である。その実施にあたっては、研究者個人が質的・量的データ分析に関する知識を修得しているか、あるいはそれらの知識を補完し合うチームを形成する必要がある。さらに、研究目的に適したデザインを選択し、その枠組みに基づいて研究を実施し、その結果を視覚的にわかりやすい形で提示する必要がある。このため混合研究法を用いる研究者は、その研究法の修得から、研究実践、そして成果発信に至るまで、従来型の研究法とは異なるさまざまなハードルを乗り越えなければならない。
本フォーラムでは、まず混合研究法の実施経験を持つ研究者から、最終的にまとめ上げられた論文からは知り得ない苦労話や裏話について話題提供をしていただく。その後ファシリテータと登壇者が、それぞれの研究の実施においてどのようなハードルに遭遇し、それらをどのように乗り越えたのか(あるいはどう回避したか)といった点についての対話を行う。そしてこの対話を通じて、登壇者および大会参加者の間で、混合研究法を修得・実施する上でのノウハウや有用な知見を共有することを目指す。

抱井 尚子

青山学院大学国際政治経済学部国際コミュニケーション学科・教授。日英両語による数多くの方法論関連の書籍や論文を出版している。著書に『混合研究法入門ー質と量による統合のアート』や、マイク・フェッターズ博士との共編著『混合研究法の手引-トレジャーハントで学ぶ研究デザインから論文執筆まで』がある。その他、ジョン・クレスウェル著 A Concise Introduction to Mixed Methods Researchの翻訳を手がけている。Journal of Mixed Methods Research編集委員(2007年~現在)。日本混合研究法学会(JSMMR)初代理事長(2015年~2017年)。

話題提供1:“質か量か?”かのハードル

話題提供者:木元 稔(秋田大学)

「研究では、現象を“量”で表現することをできるだけ追求する。量的な変数を比較するのが研究であり、比較できない最後に残ったものが“質”である。」これは、演者がたびたび耳にしてきた研究についての説明である。私自身、エビデンスは数値の大小で決定されると捉え、理学療法が量的な根拠に基づき実施されることを目指してきた。しかし、小児理学療法の対象となるお子様本人やご家族が抱える問題は多様かつ複雑であり、“質”の要素がむしろ多い。“質と量”の両方の観点から目の前の現象を捉えようとする混合研究の手法は言うまでもなく魅力的であるものの、“量”を重視してきた演者にとっての混合研究は、そのハードルが高いのも事実である。本講演では、混合研究の実施する際のハードルを、未経験者の視点から紹介したいと思う。

木元 稔

秋田大学大学院医学系研究科保健学専攻理学療法学講座・助教。専門は小児理学療法であり、研究は3次元動作解析装置を用いた歩行解析を中心に行っている。小児理学療法に関係する執筆が多数あり、「Crosslink 理学療法学テキスト 小児理学療法」では編集も担当した。量的研究のみでは解明することが難しい小児理学療法分野の複雑な問題に対し、質的研究や混合研究の手法が役立つのではないかと考えはじめている。日本小児理学療法学会理事(2022年〜)。

話題提供2:特別支援教育における質的データを扱う難しさ、提案

話題提供者:前原 和明(秋田大学)

これまで混合研究法を用いた研究を行った経験は僅かしかないが、様々な研究に取組む中では、常に混合研究法として成立するためにはどうすればよいかと、しばしば考えている。というのも、私の専門領域である特別支援教育や職業リハビリテーションでは、対象が障害のある人であり、量的な調査研究によって得られた結果が「どのように日々の支援で活用できるのか」や「どのような意味で有用なのか」という実践的有用性を明らかにすることが重要だからである。その一方で、当事者の声や現場の質的なデータを量的結果に統合することの難しさも日々感じているところである。話題提供では、これらに関して感じていることを率直に報告する。

前原 和明

秋田大学教育文化学部こども発達・特別支援講座・准教授。専門は、特別支援教育及び職業リハビリテーション。これまで障害者の就労支援及び職業リハビリテーションに関する実践及び研究を独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構において行ってきた。2019年4月より現職。現在は、障害者の特別支援教育、社会参加、生涯学習、就労支援、職業的アセスメン トなどに関心をもって研究に取組んでいる。

話題提供3:博士後期課程での研究、その後の出版での苦労~これから博士研究に取り組む方への提案

話題提供者:山田 典子(日本赤十字秋田看護大学)

約15年前、博士課程の論文ゼミで指導教授が放った一言が、今も私の心に突き刺さっています。それは、「これからはミックスメソッドやトライアンギュレーションの研究じゃないと学位が取れないよ」という呪いのようなフレーズでした。それからというものゼミでは博士の学生たちで自主的に学習会・研修会を企画し、その道の第一人者から教えを請いつつ、研究を進めていきました。博士課程の研究では、第三者に認められるまで、要するに学位が取れるまで、「本当にこれで大丈夫か?」「新規性はあるか?」「研究手法は妥当か?」等、常にこのまま進めていっても大丈夫なのかどうか、疑問符が付きまとっていました。今回は、自分の葛藤や失敗談を基に、話題提供したいと思います。

山田 典子

平成27年4月より日本赤十字秋田看護大学看護学部看護学科、日本赤十字秋田看護大学大学院看護学研究科。平成31年4月より日本赤十字秋田看護大学共同看護学専攻博士課程 教授 精神看護高度実践看護課程開講にて責任者。平成19年4月 東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科博士(後期)課程入学。平成22年3月 東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科博士(後期)課程単位修得。平成24年3月 東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科より博士(看護学) 授与。

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